シリカゲルカラムクロマトグラフィーは、有機化合物の分離・精製に最も汎用的に利用されるといっても過言ではありません。
この記事ではシリカゲルカラムクロマトグラフィーのTipsを紹介したいと思います。
展開溶媒に関するTips
まずは、カラムに使用する展開溶媒に関する情報を紹介します。
よく使用する展開溶媒系一覧
③と⑧以外はTLCでRf = 0.3くらいになる化合物がよく分離できます。
①ヘキサン ー 酢酸エチル
オーソドックスな展開溶媒で、ほとんどの方がこの展開系は使用していると思います。
中程度の極性の分子の分離に適していて分離も良好です。
②ヘキサン ー ジエチルエーテル
ヘキサンー酢酸エチルでは展開が速すぎる場合に利用しやすい展開系です。
ヘキサンー酢酸エチル系での酢酸エチルの割合が半分になったくらいの展開強度だと感じています。
ヘキサンー酢酸エチル = 9/1以下の際はこの展開系に切り替えたほうがうまくいくことが多いです。
③クロロホルム ー メタノール
高極性化合物の分離に適した展開系。
分離は良いとは言えませんし、TLCの挙動と、カラムでの溶出が異なるので、1%-10%くらいの割合で使うことが多いです。
シリカゲルの種類にもよりますが、20%以上のメタノールを使うと、製造過程でシリカゲルに吸着された無機塩が溶出してきます。
20%以上で使いたい場合は、展開前にカラムにメタノールを流して無機塩を洗い流すと良いです。
筆者は、いくつかのメーカーのシリカゲルを試しましたが、たしかに製品によって無機塩が出てくるものと出ないものがありました。
④クロロホルム ー アセトン
中程度の極性から高極性化合物までの分離に適しています。
クロロホルムーメタノール系よりは分離が良い印象があります。
アセトンと反応する分子には向かないので注意が必要です。
⑤ヘキサン ー ベンゼン
ヘキサンージエチルエーテル系でも移動が速すぎる場合に使う展開系です。
ベンゼンは毒性が強いので、トルエンにすることも可能です。
⑥ベンゼン ー 酢酸エチル
ヘキサンー酢酸エチル系よりも高極性の展開溶媒なので、少し極性の高い化合物の分離に適した方法です。
⑦ペンタン ー ジエチルエーテル
沸点の低いペンタン(bp: 36.1 ℃)とジエチルエーテル(bp: 34.6 ℃)の組み合わせなので、低沸点化合物のカラムに向いています。
この展開系を使って低温下で溶媒を留去することで、低沸点化合物を気化させることなく撮ってくることができます。
⑧ヘキサン ー 酢酸エチル ー メタノール
クロロホルムーメタノールで分離するくらいの高極性化合物の分離に適した展開系です。
ヘキサンと酢酸エチルを1:1で混合し、ここに対して1-10%程度のメタノールを添加して使います。
クロロホルムーメタノール系では分離が悪い際や、クロロホルムが使えない際の代替溶媒として使用できます。
番外編:ヘキサン→メチルシクロヘキサン
ヘキサンを使う系で、ヘキサンをメチルシクロヘキサンに変更すると分離がよくなる場合があるそうです。
(筆者はやってみたことがないので保証はできませんが。。。)
よく使う添加剤
①酢酸
カルボン酸等の酸性化合物のテーリングを抑える目的でよく使用します。
展開溶媒に対して0.1%ほど添加して使うことが多いです。
②トリエチルアミン
アミン等の塩基性化合物の分離や、酸に不安定な化合物の分離の際に使用します。
0.1%程度添加することが一般的です。
求核性が低いので、次に紹介するジエチルアミンよりは安心して使えます。
③ジエチルアミン
使い所はトリエチルアミンと同様です。
沸点が低いので、添加してもエバポで除くのが容易です。
一点注意するべきところは、求核性があることです。
エステル等のアミンと反応する官能基があると反応して化合物が分解することがあります。
カラムで困ったときの解決方法
化合物が展開溶媒に溶けない
メタノール等の高極性溶媒に溶解できる場合は、ナスフラスコの中で溶解させて、シリカゲルを適量加えてエバポします。
溶媒が飛びきった際にシリカゲルがダマになっているときは、シリカゲルが不足しているので、再度溶解させてシリカゲルを足してエバポします。
この化合物が吸着したシリカゲルをカラムの上に乗せて展開することで、分離が可能です。(まぶしカラム)
シリカゲルに吸着させることで分解する化合物は、セライトで同様に処理することで、うまく分離できる場合があります。
DMFやDMSO等の高沸点溶媒にしか溶けない場合、カラムの上に乾いたシリカゲルを乗せて、そこにマウントすることで、溶媒を吸着させて分離する方法もあります。
シリカゲルに不安定な化合物を分離したい
①カラムをトリエチルアミン処理する
多くはシリカゲルの酸性によって分解が起こります。
これを防ぐため、カラムを立てる際の溶媒に0.1%のトリエチルアミンを添加します。
その後、トリエチルアミンがない初期展開溶媒で十分流して、余分なトリエチルアミンを溶出させます。
あとは普通に展開すればいいです。
この方法では、シリカゲルの吸着が弱くなるため、TLCでも同様にトリエチルアミンで処理したものを使ってRf値を見ておくとよいです。
②マウント時にカラムを冷やす
シリカゲルによる分解は化合物が初めてシリカゲルと出会うとき、つまりマウント時に最も起こります。
この過程を抑制するため、マウントする際、カラムの界面の位置にアルミホイルで包んだドライアイスを巻き、シリカゲルの上面を冷やした状態でマウントするという方法があります。
分解に困っている方は是非試して見てください。
大量の化合物を分離したい
グラスフィルターにシリカゲルを詰めて、吸引濾過の要領でナスフラスコにフラクションを集める方法があります。
この方法では比較的少ないシリカゲルと溶媒で化合物の分離が可能です。
塩基性化合物がうまく分離できない
アミン等の化合物はトリエチルアミンやジエチルアミンを添加した溶媒系においてもうまく分離できないことがあります。
そういった場合は、シリカゲルがアミノ基で修飾されたアミノシリカを使用するとうまく分離できる場合があります。
少々値が張るのが難点ですが、合成終盤で使うシリカが少ない際は検討に入れても良いでしょう。
終わりに
シリカゲルカラムクロマトグラフィーは何度もやる操作ですが、化合物の性質によって予期せぬトラブルもよく起こります。
この記事が、そうしたトラブルの解決の役に少しでもたてばよいなと思います。